近年、マーケティングの世界では、ポジショニングの重要性が認識されるようになってきました。
しかし、ポジショニングはまだ新しい概念なので、その正確な意味を理解している人は少ないのが現状です。
今回は、ポジショニングの基本的な概念や具体的な手法、成功事例、失敗事例などを通じて、ポジショニングの理解を深めていきましょう。
ポジショニングとは?基本的な概念
ポジショニングとは、顧客に自社商品を強く認識してもらって、他社商品との差別化を図るものです。
これは、顧客に自社商品の優れた点を認めてもらい、参入している市場で優位に立つために行います。
ポジショニングを成功させるためには、KBF(Key Buying Factor:購買決定要因)を知ることが重要です。
顧客の購買動機を知り、顧客のニーズを理解してそれに沿った戦略を展開することにより、他社より秀でた地位に立つことが可能となります。
そのためには、まず顧客に自社商品の魅力を知ってもらう必要があります。
多くの競合商品の中から自社商品を選んでもらうためには、それだけの価値のある商品であることを印象付けなくてはなりません。
そのための活動がポジショニングです。
ここで重要となるのは、自社商品のどこが競合商品とどう違うかを明確にするセオリーにあります。
自社商品の優位性をしっかり印象付けないと、顧客の頭の中にポジショニングすることはできません。
ここでのポイントは、「他社商品と比較してどう優れているか」ではなく、「自社商品が顧客に魅力的な商品と認めてもらえるかどうか」です。
メーカーは機能面ばかりを重要視しがちですが、消費者が評価する点は、必ずしもメーカーの視点と一致しているとは限りません。
世の中には「機能は優れているけど使いにくい」という商品もあります。
それよりも、多少機能は劣っても、使いやすい商品のほうが支持されることもあるのです。
ポジショニングと差別化の違い
ポジショニングとは、自社商品を他社商品と差別化することです。
しかし、ただ差別化するだけでなく、自社商品の優位性を顧客に認識してもらえないと、ポジショニングができているとは言えません。
このために必要なのが、USP(Unique Selling Point)という概念です。
USPとは他社にはない独自性のことです。
自社商品と似た商品を他社も販売していて、それぞれ優れている点がありますが、この優れた点の違いがその商品の独自性になっています。
たとえば、同じ作業服でも撥水性のある作業服と、耐火性のある作業服ではセールスポイントがまったく違います。
このように、USPには作業服という本来の使い方に、撥水性や耐火性のような付加価値をつけるものでもあるのです。
しかし、ただ単にUSPがあるだけでは、売り上げアップにはつながりません。
その商品の独自性を理解し、支持してくれる顧客や市場がなければ、売り上げには結び付かないのです。
ポジショニングにとって重要なのは、その業界の中でポジションを確立することです。
つまりそれは、その企業が戦う場所を決めることを意味します。
作業服メーカーなら、LLサイズに特化した商品をメインにするとか、焼き肉店なら1人客用にカウンター席を多く設けた店づくりにするなど、競合他社にない独自性を打ち出すことが大切なのです。
作業服を販売するのに、他の同業店と同様の品ぞろえでは、既存の老舗店には太刀打ちできません。
もちろん焼き肉店でも同じことが言えます。
他店にない独自性を打ち出し、戦う土俵を決めて、それに興味を持ってくれたユーザーにターゲットを絞って、営業展開するのがポジショニングなのです。
同じ業界でも、まったく違った視点で営業展開している企業はたくさんあります。
たとえば、立食形式のフランス料理店をチェーン展開して話題になった企業もありますし、大手ハンバーガーチェーンに対抗して、内装をグレードアップして少し高めの値段設定で勝負している店もあります。
このようにアイデアしだいで、既存の業界に新しいポジショニングを確立することは十分可能なのです。
ポジショニング戦略の手法
ポジショニングを成功させるには、
自社商品のユニークさを多くの人に認識してもらうのが基本です。
これは、その商品が斬新なものであればさらに効果があります。
たとえば、「寿司はカウンターで食べるもの」という常識を覆し、「回転寿司」が登場して、あっという間に全国に広がりました。
これまで高級とされてきた寿司を、手軽な値段で食べられる回転寿司の登場は画期的なものでした。
さらに、最近では寿司ロボットを導入した回転寿司チェーンも増えていて、さらなるポジショニングを確立しています。
こちらの場合は、「寿司は長年修行した寿司職人が握るもの」という常識を覆したわけです。
また、有効なポジショニングのためには、顧客に強烈な印象を与える特徴を持つことも大切です。
ある商品を選ぶ場合に決めてとなるのはKBF (購買決定要因)です。
たとえば、洋服を選ぶ場合にはデザインや価格などが決め手となりますが、この中でデザインを重視して選ぶ人がいたとしたら、その人のKBFは「デザイン」ということになります。
デザインを重視する客層にアプローチするなら、企業のデザイン部門を強化すればいいのです。
しかし、実際には顧客はデザインだけで商品を選ぶわけではありません。
値段も商品選びの重要なポイントになりますし、オールシーズン着られる服か季節限定かによっても好みが分かれます。
また、若者向けか年配者向けかといった違いもあります。
どの客層に対してどんな商品を売り込むか、KFBを意識しながら自社商品の強みを打ち出すことが、ポジショニング戦略のポイントと言えるでしょう。
ポジショニングの成功事例と失敗事例
実際にポジショニングを行って、成功した例と失敗した例をご紹介しましょう。
成功したポカリスエットとヘルシア緑茶
ポカリスエットは、最初はスポーツ飲料としてポジショニングを確立しましたが、すぐにアクエリアスなどの競合商品が登場して、再度ポジショニングが必要になりました。
その結果、ポカリスエットは「健康によい清涼飲料水」というポジショニングを行い成功しました。
こうすることで、ポカリスエットはスポーツ飲料というイメージの強い、競合他社との差別化を図ることができたのです。
ヘルシア緑茶も、ポジショニングによって売り上げが伸びました。
ヘルシア緑茶が誕生した頃は、すでに緑茶飲料業界にはいくつもの競合商品があり、新規参入は困難でした。
しかし、既存の緑茶飲料がすべて若者をターゲットにしていたので、ヘルシア緑茶は「肥満に悩む中年男性」をターゲットにポジショニングを行い、現在の地位を確立したのです。
失敗した大塚家具
ポジショニングの失敗例として、大塚家具が挙げられます。
数年前に起きたお家騒動と社長交代劇は、まだ記憶に新しいところです。
大塚家具は、会員制の高級家具販売というポジショニングで成功しましたが、ニトリやイケアなどの台頭で業績不振となり、高級路線からカジュアル路線にポジショニングしたのですがうまくいきませんでした。
高級路線からカジュアル路線へ変更したことで、これまでの顧客が離れてしまい、新しい顧客は思ったように獲得できなかったのです。
高級家具一本でやってきた大塚家具には、カジュアル路線のノウハウがなかったために、新しいポジショニングが確立できなかったのでしょう。
リポジショニングの方法
リポジショニングは、一度確立したポジショニングが、ライフスタイルなどの変化によって時代に合わなくなった場合に、再度ポジショニングを行うことです。
リポジショニングが必要な例として、これまでターゲット層としていた客層の年齢が高くなり、商品のイメージと合わなくなることが挙げられます。
それでも若い世代が次のターゲット層になってくれれば問題ないのですが、それができないと業績不振に陥ってしまいます。
適切なリポジショニングを行うには、上記のポカリスエットの例のように、同じ商品でありながらイメージを変えて、売り上げにつなげるのが理想的な方法です。
ポカリスエットは「スポーツ飲料」から「健康飲料」にイメージを変えて見事にリポジショニングを成功させました。
まとめ
市場内での立ち位置を決めるポジショニングは、しっかりと地に足をつける目的と、柔軟に市場に対応し、俊敏に移動する目的の2つを持ち合わせなければ上手くいきません。
決定したポジショニングが効果的に働いているのかを常にチェックし、リポジショニングを厭わない立ち位置を持ち合わせることが重要なポイントとなっていきます。